「農業でお金を生むのは、作物だけじゃなくなるかもしれない。」
ある若い農家が、ふとこんな言葉を漏らした。
地域の勉強会で“カーボンクレジット”の仕組みを知り、
「農業がCO₂削減の担い手になる時代が来る」と気づいたのだという。

これまでは、CO₂削減といえば大企業の設備投資や再エネの話が中心だった。
けれど、どうやら潮目が変わりつつある。
土の中に炭素を蓄える農家が、世界で静かに主役になり始めている。
そしてその鍵を握る素材のひとつが、
意外にも、もみ殻から生まれるシリカ(ケイ素)だった。
なぜシリカがカーボンクレジットとつながるのか。
その理由を追っていくと、土・微生物・炭素の循環が一本の線として浮かび上がってくる。
■ 土は大気よりもはるかに大きな“炭素の倉庫”だった
世界の土壌科学では、
「土壌は大気の2〜3倍の炭素を蓄えている」
とされている。(IPCC 土壌炭素評価)
つまり、土の状態を良くするだけで、
大気中のCO₂濃度を下げる力があるということだ。
日本の農地でも、
- 団粒化(ふかふかの土)が進む
- 有機物が分解されすぎず残る
- 微生物が多様に動く
こうした条件が揃うほど、炭素の“滞留”が長くなる。
ここにシリカの働きが静かに重なる。
■ 微細構造が炭素を抱え込む。“もみ殻シリカ”の力
もみ殻由来のシリカは、顕微鏡で覗くと無数の穴を持つ多孔質だ。
日本の土壌物理研究では、
「もみ殻シリカは土壌中の有機物を安定化させ、分解スピードを緩やかにする」
と報告されている。
つまり、本来ならすぐCO₂として大気に戻る炭素が、
この微細な空間に“留まりやすくなる”。
さらに米国・豪州の研究では、
植物性シリカを含む炭化物が長期安定炭素として、
CO₂固定に寄与することも示されている。
かつて燃やしてしまっていたもみ殻が、
実はCO₂削減の有力な素材だったというのは、皮肉でもあり希望でもある。
■ シリカを入れると、微生物が“炭素を逃がさなくなる”
炭素を土の中に留めるのは、資材だけでは足りない。
微生物の助けが必要になる。
もみ殻シリカの多孔質構造は、微生物にとって居心地のよい住処になる。
国内の研究では、
- 菌根菌の定着が高まる
- 有用菌の活性が上がる
- 炭素を“安定型”へ変換する動きが強まる
と示されている。
安定型炭素とは、微生物が分解しにくい形で土に留まる炭素のこと。
これが増えれば増えるほど、CO₂排出は確実に下がる。
つまり、
シリカ → 団粒化 → 微生物が動く → 炭素が固定される
という一連の流れが畑の中で自然に起きる。
農家の土づくりが、そのままカーボンクレジットにつながる理由はここにある。

■ 土が良くなると、“肥料由来CO₂”も減っていく
カーボンクレジットの評価は、
直接的なCO₂削減だけに限らない。
世界的には、化学肥料を減らすことで削減されるCO₂も対象になる。
肥料の製造には多くのエネルギーが使われており、
1kg削るだけでもCO₂排出は着実に減る。
農研機構の解析では、
団粒化した土は肥料効率が高く、
投入量を減らしても生育が落ちにくいとされている。
もみ殻シリカは、
- 団粒化
- 根のストレス耐性
- 微生物活性
を通じて、“肥料に頼らない畑”をつくる。

その結果、
肥料由来のCO₂削減 → 収益化(カーボンクレジット)
という流れが自然に生まれる。
■ “地域で回る資源”が、農家の収益を変えていく
シリカ循環は、環境だけでなく経済性にも直結している。
- もみ殻を焼かない(CO₂排出ゼロ)
- 廃棄処理の負担がなくなる
- 資材として使える(購入費の削減)
- 土が良くなり肥料代が減る
- 樹勢が安定し品質もブレない
- そして炭素貯留量が“収入源”になる
地域にある素材が、地域の農業を支え、
その循環がそのまま収益になる。
海外ではすでに、土壌炭素を“農家が売る”仕組みが広がっており、
日本も確実にその方向へ向かっている。
もみ殻シリカは、
地域資源を地域で回す農業にぴったりの素材なのだと思う。
■ 最後に
農業でCO₂を減らすと聞くと、
大型設備や特殊技術を思い浮かべがちだ。
けれど実際には、
もみ殻を活かした土づくりだけで、
廃棄削減・CO₂固定・収益増加が静かに同時に起きていく。
シリカは、
土を再生し、微生物を動かし、炭素を留め、
肥料依存を減らし、環境価値まで生み出す。
カーボンクレジットが農家の収益になる時代。
畑づくりそのものが、
“地球を守る仕事”に変わりつつある。
未来の農業は、
作物と同じように 炭素も育てる時代へ向かっていく。
その静かな革命の中心に、
もみ殻シリカという小さな素材がある。

