田んぼの隅に、山のように積まれたもみ殻。
軽くて飛び散り、扱いに困り、時には燃やされてしまう。

理由はひどく単純で、そして奥深い。
もみ殻の中には、植物性シリカ(ケイ素)がぎゅっと詰まっている。
これまでただ捨てられてきたものが、
CO₂を固定する資源になり、
土を再生し、
収益まで押し上げ、
農業そのものを循環型の仕組みに変えていく。
「シリカ循環」
その言葉を聞くと少し大げさに思えるが、
土と作物と地球が、静かに一本の線でつながり始めている。
■ 廃棄物が資源に変わる。“もみ殻の第二の人生”
もみ殻は、よくよく見ればただの副産物ではない。
そのおよそ20%がシリカで構成され、
しかも植物が吸収しやすい形をしている。
日本の大学の分析でも、
もみ殻の表面は細かな穴を無数に持つ“多孔質構造”で、
水も空気も微生物も寄りつきやすい特性があるとされている。
つまり、
燃やしてしまっていたものを土に戻すだけで、
土が勝手に良くなり始める。

廃棄ゼロ農業の第一歩は、こんな身近なところから始まるのだ。
■ CO₂を固定する“土の貯金箱”としてのシリカ
世界ではいま、CO₂削減の新しい選択肢として
植物残渣由来のシリカに注目が集まっている。
米国・豪州の研究では、
植物性シリカを含む炭化物には次の特徴があると報告されている。
- 分解がとても遅い
- 土中で安定的に存在し続ける
- CO₂を長期固定する“土の貯金箱”になる
つまり、もみ殻由来シリカを土に入れる行為は、
土壌改良 × CO₂固定
この2つの価値を一度に生む。
農業が“排出源”から“吸収源”へと変わる。
これは、シリカ循環が持つ大きな可能性の一つだと思う。
■ “土が疲れない”畑は、そのまま高収益につながる
シリカ循環が経済的にも意味を持つのは、
土の団粒化を自然に促す点にある。
団粒化した土は、
- 水はけが良い
- それでいて必要な分の水を保持する
- 空気をたっぷり含む
農研機構(NARO)の研究でも、
団粒の整った土は肥料効率が高く、
過剰施肥のリスクが減ることが示されている。
つまり、
肥料代は減り、樹勢は落ちず、品質はむしろ上がる。

肥料価格が揺れやすい今、
「肥料に依存しない土」をつくることの価値は、
以前よりずっと重くなっている。
■ シリカが巡ると、微生物も巡り始める
畑を変えるのは、資材そのものではなく“流れ”だ。
もみ殻シリカの多孔質は、微生物にとって格好の住処になる。
日本の微生物研究でも、
- 微生物多様性の向上
- 菌根菌の定着
- 有機物分解の促進
といった変化が確認されている。
微生物が動くと、
土は自力で肥料を循環させる“自然の補給装置”を持つようになる。
化学肥料ではどうしても再現できない、
自然が本来備えている高性能な仕組みだ。
■ “資源を持ち込む畑”から“資源を生み出す畑”へ
シリカ循環の面白さは、
単に資材を使う話で終わらないところにある。
- もみ殻を捨てない(廃棄ゼロ)
- 土に戻す(資源化)
- 土が良くなる(団粒化)
- 微生物が働く(循環促進)
- 肥料が減る(経済効果)
- CO₂が固定される(環境価値)
- 作物の品質が上がる(収益化)
この一連の流れが、
農家の手元と地球環境を同時に良くしていく。
まるで輪がひとつずつ閉じていくように、
畑そのものが強くなっていく。
■ 現場では、こんな“未来の兆し”が見え始めている
実際にシリカ循環を取り入れた農家では、
- 翌年の土が軽く、耕しやすい
- 肥料を減らしても品質が落ちない
- 水やり後に根が疲れない
- 年々、土の“息づかい”が良くなる
- 地域内で資源が回り始めた
こんな声が自然と出てくる。
これは、
単なる土壌改良というより、
地域資源の循環を軸にした“農業のインフラ改革”に近い。

■ 最後に
シリカ循環は、派手な新技術ではない。
むしろその逆で、
“見落としてきた資源を活かす”という、とても静かな発想だ。
もみ殻という身近な素材が、
- 廃棄物から資源へ
- CO₂排出源から吸収源へ
- 肥料依存から自立型農業へ
- 年ごとに疲れる土から、年ごとに良くなる土へ
そんな変化をもたらしていく。
未来の農業は、
重たい投入ではなく、
自然の循環を後押しする軽やかな仕組みへと向かっていく。
その入り口に立つのが、
もみ殻から生まれた小さくて力強い存在、
シリカ循環である。

