収穫前の畑を歩いていて、
赤く色づいた実がひび割れているのを見つけると、
胸の奥がきゅっと縮む瞬間がある。
「今がいちばんいい」と思えるあの一瞬のために育ててきたのに、
雨や灌水のタイミングひとつで、一晩のうちに裂果してしまう。

裂果は品種や天候だけでは説明できず、
“果皮そのものの強さ”が深く関わっている。
そんな“果皮の体力”にそっと目を向けて、
ここ数年、プロの農家が取り入れ始めているのが
シリカ(ケイ素)だ。
派手な資材ではない。
けれど、使った圃場では
「裂果が明らかに減った」
という声が静かに積み重なりつつある。
なぜシリカが果皮に効くのか。
その理由は、果皮の奥の細胞壁に隠れている。
■ 裂果は“外側でなく内側”から始まっている
裂果は外側の皮が破れるように見えるが、
実際には内部の細胞壁が先に弱っている。
日本の大学の果実生理研究でも、
「細胞壁が疲れている果皮は、水分変動に耐えられず裂果が増える」
と報告されている。
つまり、
皮が薄いから割れるのではなく、
細胞壁そのものの強度が裂果を左右する。
そしてこの細胞壁を静かに補強してくれるのが、シリカだ。
■ シリカは細胞壁の“外側の補強材”として働く
国際分子科学誌(IJMS)によると、
シリカは細胞壁に沈着し、
ペクチン・セルロース・リグニンといった壁の構成成分を
外側から支える働きを持つという。
補強が起きると、
- 細胞壁が圧力でつぶれにくい
- 果皮の厚みと弾力が安定する
- 水が急に入っても“膨張しすぎない”
という状態が生まれる。
裂果は雨や灌水で果実内部が急に膨張したときに起きるため、
細胞壁がしっかりしているかどうかが大きな分かれ目になる。
シリカはその“しっかり”を支えてくれる。
■ 土の水変動を抑える:もみ殻シリカが持つ“もう一つの力”
日本の土壌物理研究では、
もみ殻由来のシリカが
「団粒化を促し、保水と排水のバランスを整える」
と報告されている。
これは裂果にとって非常に重要だ。
土が急に水を抱え込むと、
果実の内部に水が一気に入り、
皮が内部から押し広げられてしまう。
一方、団粒化した“ふかふかの土”は、
- いったん水を抱えてゆっくり放出する
- 空気を含むため、水が滞留しない
という特徴を持ち、
結果として果実への急激な水流入を防いでくれる。
つまり、
シリカは果皮だけでなく“土側の水ストレス”も緩和する
という、二重の働きを持っている。
■ 海外研究が示す“ストレスに強い果皮”
オランダ・WUR(園芸研究所)の研究では、
「シリカを取り込んだ果実は、強光でも細胞壁の厚みが保たれる」
とされている。
またオーストラリアの CSIRO でも、
細胞壁の補強が
温度差による果皮の緩みを防ぐ
という結果が示されている。
裂果の原因は水だけではない。
強光で細胞が疲れる
温度差で細胞壁がゆるむ
風で果皮がこすれダメージが入る
こうした複合ストレスが積み重なると裂果は増える。
シリカは果皮の細胞壁を外側から補強するため、
こうした“多方向のストレス”に強い果皮が維持されやすい。
■ 現場の農家が語る手応え
科学とは別に、
畑でシリカを使っている農家はこう話す。
- 「雨の翌日でも割れる実が激減した」
- 「果皮が締まり、扱いやすい」
- 「強光の日のダメージが減った」
- 「後半の大玉でも割れにくい」
どれも細胞壁が強い果皮の特徴と一致している。
裂果は一度始まると連鎖的に増えるため、
果皮が最初から整っていると“裂果の起きない畑”になる。
■ 果皮と土、両側から裂果を防ぐという発想
裂果対策といえば、
灌水量の調整や品種選びが中心になる。
もちろんそれらも大切だが、
細胞壁と土壌の両方を整えるという視点は
まだあまり知られていない。
細胞壁が補強される → 外側が割れにくい
土壌が団粒化する → 内側に急に水が入らない
この二つが揃ったとき、
裂果リスクは大きく下がる。
もみ殻由来シリカは、
この“二方向の補強”を同時に叶えてくれる素材だ。
■ 最後に
裂果は運ではない。
果皮の細胞壁と、土の水バランス。
この二つが整っているかどうかで決まる。
シリカは果皮を外側から補強し、
ストレスで緩みにくい“強い果皮”を育てる。
同時に、
もみ殻由来シリカが土壌をふかふかにし、
急な水変動による“内部の膨張”を抑える。
果皮の外と内、
その両側から裂果の原因を断ち切ることで、
雨のあとも、温度差のある日も、
トマトは静かに形を保ち続ける。裂果ゼロを本気で目指したいなら、
果皮の強さという新しい視点を
そっと畑に迎えてみてほしい。
