畑を歩いていると、ときどき一株だけ不自然にしおれたトマトが目に留まる。
その瞬間、胸の奥がかすかにざわつく。
青枯れ、萎ちょう、根の疲れ。
どれも“ほんの小さな弱り”から一気に広がることがあると知っているからだ。

こうした不安がまとわりつく季節に、近ごろ静かに評価を集めているのが、
植物の細胞壁を強くする自然素材、シリカ(ケイ素)である。
決して派手な資材ではない。
劇的な即効性をうたうものでもない。
それでも、気づかないうちに株の芯を支え、
“病気に押し負けない体勢”を整えてくれる。
そうした静かな手応えが、畑の現場からじわりと広がっている。
■ 「病原菌が入り込めない株」とは、どんな株なのか
トマトが病気に負けるとき、
その入口となるのは、細胞壁の弱った部分だ。
細胞壁とは、細胞を守る外側の“鎧”のようなもの。
ここが疲れていたり薄くなっていると、病原菌にとっては破りやすい扉になる。
だからこそ、病害に強い株は、
根・茎・葉の細胞壁がしっかりしている。
“細胞レベルでの強さ”こそ、病気に立ち向かう第一歩なのだろう。
シリカが注目されている理由は、まさにこの細胞壁の材料になる点にある。
国際分子科学誌(IJMS)の報告でも、シリカが細胞壁に沈着し、
細胞の強度を高めることが確認されている。
つまり、外側からの攻撃に対して壊れにくい“丈夫な細胞”へと育つということだ。
■ 菌のほうが“弱気になる”ことがある
シリカは細胞を強くするだけではない。
実は、病原菌側の動きにも影響を与える。
中国の研究では、シリカを与えたトマトで
青枯れ菌(R. solanacearum)の病原性遺伝子の発現が低下し、
発病指数が 46〜72% も低くなったという。
つまり、
「植物が強くなる」+「菌の勢いが落ちる」
この二つが同時に起きている。
畑で病気の蔓延を食い止めたいとき、これは心強い作用だ。
■ 高温期でも“根が負けない”という安心感
病害が広がりやすいのは、夏の高温期だ。
土が締まり、地温が上がり、根の呼吸が奪われる。
根が弱ると、病原菌は一気に入り込む。
ここでもシリカは役に立つ。
中国農業科学院の試験では、
シリカを施したトマトの根の乾物重が 22.8〜51.6% 増え、
湿害や酸欠への耐性が高まったとされている。
根が太く、白く、動き続ける。
その状態さえ保てれば、病気の侵入は格段に起きにくい。
さらに、もみ殻由来シリカは土をふかふかにし、
根の周りに細かな空気の道をつくる。
これは他のシリカ資材にはなかなか見られない、自然素材ならではの働きだ。
「今年は根が疲れない」
「高温でもしおれにくい」
そんな声が増えている背景には、この体質の変化がある。

■ 葉が“バテない”と、病気は寄りつきにくい
病気が入り込む前触れとして、
葉のバテや蒸散の乱れがよく現れる。
シリカを使った株の葉は、強い日差しの中でも意外と落ち着いている。
葉の細胞壁が強いと、光や熱のストレスを受けにくく、
光合成が安定し、その結果として導管の流れも乱れない。
表面的には病害の話に見えて、
実は 葉の安定=病気の防波堤 であることが少なくない。
■ 病気に強い畑は、静かに“崩れない”
シリカを取り入れている農家が共通して口にするのは、次のような変化だ。
- 午後になってもしおれにくい
- 葉の厚みが落ちない
- 終盤でも根が白い
- 病気が広がりにくい
- 株に「踏ん張り」がある
これらは科学的な作用の延長線にあるが、何より
“畑を歩くと、違いが分かる”
という実感とともに語られる。
病気をゼロにする資材ではない。
しかし、病原菌が入りにくい“身体の状態”を作る素材ではある。
そのため、シリカは派手ではないが確実な支持を集めている。
■ 最後に
病気に泣かないトマトは、細胞から強くなる。
病害に強い株とは、
根も、葉も、茎も、ひとつひとつの細胞がしっかりしている株のことだ。
その“しっかり”を下支えするのが、
シリカ(ケイ素)という自然素材である。
病原菌を叩くのではなく、
トマト自身が負けない身体でいられるよう支える。
いまの気候の厳しさを思えば、
そのアプローチはこれからますます価値を持つのだろう。
畑を歩いたとき、
「今年は安心だ」と思える株が増えていくように。
細胞壁から強くする。
そんな選択肢があるということを、静かに心に留めておいてほしい。
