夏の落花は運命じゃない。トマトが静かに強くなる理由

夏の落花は運命ではない。
そんな当たり前のことを、真夏のハウスに入るたび、私はふと思い出すことがある。
まとわりつく空気は、まるで薄い布を肩に掛けられたようで、足元の土は朝から湿り気を含んでいる。
葉の表面に浮かぶ微かな水滴を眺めていると、植物も私たちと同じように暑さに耐え、黙って日々を進めているのだと感じさせられる。

それでも、農家が胸の奥でいちばん恐れているのは“落花”の気配だ。
昨日まで凛としていた花房が、気づけば力を失っている。
あの瞬間、時間が少しだけ止まるような、妙な静けさがある。
経験を積んだ人であっても、やはりざわつくものだ。

ところが近年、その不安の季節に「今年は違うな」とつぶやく人が増えている。
大げさな資材ではない。
ただのシリカ、自然界のどこにでもある、静かな素材である。

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■ 花が落ちる理由は、花そのものの中ではなく“外側”にある

トマトの花は見た目以上に脆い。
高温で受粉が乱れるという説明は確かにあるのだが、実際にはもう一段階、根の疲労と導管の乱れが先に起きている。
真夏のハウスで土中の酸素が失われると、根は水を吸い上げる力を乱し、そこから花房への“水の呼吸”が途切れがちになる。

宮城県の青枯病の報告にも、“根圏ストレスが花の衰弱を早める”と記されていたと記憶している。
つまり、暑さそのものよりも、暑さに耐えられない体勢に追い込まれてしまっている、ということなのだろう。

■ シリカを施した畑で、花がふんばる理由

畑というのは、嘘をつかない。
真夏の午後でも花軸がしっかりと上向きのまま。そんな株に出会うと、理由を探すまでもなく、株が内側から整っているのだと感じる。
その裏にあるシリカの働きは三つほどだが、あまり理屈っぽく言うのも野暮なので、現場の目線で触れておきたい。

(1) “ヘタらない花”という手応え

細胞壁の強弱は、花の踏ん張りに直結する。
シリカによる補強は、目に見えなくとも確かに作用するようだ。
国際分子科学誌によれば、シリカ施用したトマトでは青枯れの発病指数が46〜72%下がったという。
病気の数字ではあるが、裏側には“壊れにくい身体”ができているという意味も含まれているのだと思う。
壊れにくい花は、暑さの中でも、静かに芯を保つ。

(2) 葉が暴れなければ、花は静かに仕事を続ける

強光の午後、葉が急に疲れてしまうと、いつも最初にしわ寄せが来るのは花だ。
シリカは葉の表面に薄い層を残し、光の受け方や水分保持を落ち着かせるとも言われている。
中国農業科学院の研究では、シリカ処理したトマトの根の乾物重が22.8〜51.6%増えたという。
根がしっかりしていると、葉が慌てず、花に回る余力が生まれる。
その連鎖は、小さく見えて実は大きい。

(3) 根が止まらない株は、花を落とさない

真夏に落花が続く株を掘ると、根が細く、白さを失っていることが多い。
高温に疲れた根は、まるで息を浅くしているかのようだ。
シリカは根の細胞壁を支え、湿気や酸欠への耐性を高める。
そこにもみ殻由来シリカの“土をほぐす力”が重なると、根のまわりに細かな空気の道ができ、呼吸が保たれる。
動き続ける根は、花房へ水と養分の流れを乱さない。
落花の気配が消えていくのは、その延長にすぎない。

■ いい畑には、いい「花の姿勢」がある

シリカを上手に使う農家の畑には、どこか共通の静けさがある。
花房は夕方になっても崩れず、葉色には厚みがあり、収穫後半の花芽も乱れない。
「この株は最後まで走れる」と、自然に思わせてくれる姿である。
印象というより、株の奥で根・茎・葉・花がひとつの身体として動いている証だろう。

■ 気温は変えられない。けれど、花が落ちにくい体質は育てられる

これからの夏は、さらに厳しくなると言われている。
35℃のハウス、湿度90%という世界では、花が落ちやすいのも無理はない。
それでも、株の体質そのものを整えることで、暑さのただ中で“落ちない花”を育てる道は残されている。

もみ殻シリカは、
・細胞の強さ
・葉の落ち着き
・根の持久力
この三つを、静かに底上げする素材だ。

研究の数字は背骨となり、
現場での手応えが肉となり、
その二つが合わさると、不思議なほど説得力が生まれる。

■ 最後に

高温期の落花は、暑さそのものではなく“暑さに負ける身体”がつくり出す。
シリカは、植物が本来もつ芯の強さをそっと引き出し、花を落とさない体勢へ導く。

気温は変えられない。
だが、株の強さは育てられる。

自然素材の静かな力に耳を澄ませながら、
今年の夏も、花がしなやかに季節をくぐり抜けてくれることを願いたい。

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