シリカで味が変わる?プロが実感した“甘さの伸びるトマトづくり”

シリカで味が変わるのだろうか。
そう問いながら、夏の日差しの下で赤くふくらむトマトを見ると、どこか答えが近づいてくるような気もする。
収穫かごに触れただけで広がる、あの濃い香り。
「今年の実は甘い」そう感じられるひとときは、農家にとって小さくても確かな励ましだ。

しかし、近年は天候の揺れのせいだろうか、
「甘みが乗らない」「暑さで味が薄くなる」という声が以前より増えてきた。
そんななかで、栽培の手順をほんの少し変えるだけで
「甘みが前より残る気がする」
そう静かに実感する農家が増えている。

その背景にあるのが、シリカ(ケイ素)を取り入れた栽培である。
大げさな資材ではない。
ただ、触れていくほどに「植物はこんなふうに味を守れるのか」と思わされる。
そして“甘みが2割増したような気がする”という現場の手応えの奥には、確かに科学が示す理由が潜んでいる。

目次

■ 甘みは偶然ではなく、“根・葉・果実”の呼吸で決まる

トマトの甘さの中心には、
光合成 → 葉 → 導管 → 果実
という流れが、どれだけ滞りなく続くかという一点がある。

けれど真夏の畑では、この流れが容易に揺らいでしまう。
根が高温で酸素を失い、吸水のリズムが乱れる。
葉は強光で疲れ、軽い脱水のような状態に追い込まれる。
導管の水の流れが不安定になれば、果実へ運ばれる糖も途切れがちになる。

結果として、「味がぼやける」「甘みが抜ける」。
その落差を味わった農家は少なくないはずだ。

だからこそ鍵は、
“根と葉の働きをいかに落とさないか”。
そこで、シリカが静かに役目を果たし始める。

■ シリカが“甘さの土台”を守る理由

(研究で分かっている部分だけ触れておく)

シリカの働きは、トマトの栽培と相性が良いとされる。
誤解のないように、ここでは実際にデータで確認されている作用だけを挙げたい。

(1) 葉のストレスを減らし、光合成を落としにくくする

シリカは葉の細胞壁に入り込み、光と熱への耐性を高めることが報告されている。
中国農業科学院の研究では、シリカを施したトマトの根の乾物重が22.8〜51.6%増加し、
そこから光合成が安定して維持されたという。

根が強ければ吸水もぶれず、葉は働き続ける。
光合成が保たれれば、果実へ送られる糖も乱れにくい。

(2) 果実の細胞が締まり、味が“逃げにくく”なる

シリカは細胞壁を補強する作用があり、
国際分子科学誌(IJMS)にはトマトの細胞が物理的に強くなる様子が掲載されている。

細胞が締まることで、水っぽさが消え、味に密度が生まれる。
プロが「実にハリがある」「味が残る」と表現する感覚は、まさにこの変化に近い。

(3) 根が高温でも止まりにくい

根の疲れは、味の乱れの最大の敵だ。
シリカは根の細胞壁を整え、高温・湿害・酸欠に対する耐性を高める。

さらに、もみ殻由来のシリカの場合、
多孔質の粒子が土をふわりとほぐし、根の周りに空気の道を作る。
「夏でも根が白い」
その小さな違いが、実はとても大きい。


■ 現場で起きていること

“甘み2割増し”の正体
農家の声を重ねると、こんな傾向が浮かぶ。

・「夏に味が抜けにくくなった」
・「糖度計の数字より、食べた時の濃さが違う」
・「後半の実まで味が落ちない」
・「果肉に密度がある」

この“2割”は、統計上の数字ではなく、現場の体感に近い。
一方で科学が示しているのは、
“シリカによって根・葉・細胞が強くなり、甘みが落ちる要因が減る”という“土台の変化”。

そして現場が示しているのは、
“結果として味が保たれ、濃さを感じる”という実感。

この二つがゆっくりと重なり合い、
「シリカ栽培=味が安定する」という評価が広がってきたのだろう。

■ 最後に

シリカは甘みを“増やす”のではなく
甘みを“落とさない状態”を作る

シリカは糖そのものを増やす資材ではない。
けれど、糖を蓄えるための土台。
根の強さ、葉の働き、果実の締まりを整えてくれる。

だからこそ、
・高温の年
・暑さにこもるハウス
・収穫後半のばてやすい時期
そんな条件でも味が残りやすい。

“甘み2割アップ”という言葉の裏には、
研究が支える事実と、現場が積み重ねた夏の経験の両方が息づいている。

シリカは、甘みを“つくる”素材ではなく
甘みを“守る”素材なのだ。

その静かな力に、これからも耳を澄ませていたい。

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