創業の精神 ― 
岡伸二会長の経営哲学
—ゼロから、信頼で国土を走らせる人—
生まれは岡山。父を戦争で亡くし、幼少期から「自分の力で立つ」という覚悟を胸に育った。豊かさはなかったが、祖父母とともに過ごし、地域の人々に囲まれながら「人は支え合いで生きる」という原点を心に刻んだ。

若い頃、友人から自動車学校の設立を相談され、大型車の指導員・検定員として道を拓いた。教えることは技術以上に、命を守る判断を伝えること。道路で人を導く経験は、後の事業の礎となった。
そして運命を変える出会いがあった。木材輸送の依頼である。資金はゼロ。しかし信頼だけはあった。銀行からわずかに借り入れ、新車を下ろし、最初のドライバーを雇った。 ところが初日、交差点で事故が起き、命を落とす人が出た。逃げずに向き合い、責任を背負い、安全最優先の理念を胸に刻んだ。——この瞬間、岡会長の原点である「無事故の旗」が立った。

ゼロから築いた会社は「信頼」を基盤に育った。人を抑えるのではなく、先に尽くす。
返礼は別の縁から戻ってくる。数字から逃げず、現場に立ち、むやみに人を増やさず、自らも汗をかく。だからこそ、運送という日本の血流を支える存在へと成長できた。
日本の物流業界における協会団体の役職を務め、地域の交通安全と物流を守った。物流を通じて、国家の基盤を支える。86歳を迎えてもなお現役であり続ける姿に、多くの人が驚嘆する。

事業は拡大し、成田空港内にも拠点を構え、全国で4か所の拠点と連携して輸送業務を担う。貨物のチェックや厳格な物流管理を任されるのは、長年にわたる無事故と信頼の証だ。
その歩みは海外にも広がった。森林資源に乏しいアフリカの国々へ住宅資材を紹介し、現地の人々が自ら住まいを建てられるように支援する。信頼を受けたら、さらに別の形で次の人へ渡す。岡会長の国際協力は、そんな「信頼の循環」で成り立っている。

近年出会った「シリカ」もまた、その思想に重なる。捨てられるはずのお米のもみ殻から生まれる植物性シリカは、土壌を改良し、水を浄化し、熱を和らげ、命を支える。「廃棄物を価値に変える」循環の知恵に、岡会長は未来を見ている。
「名前が大事だ」と語るのも、ブランドが人の記憶に残り、信頼の入口となるからだ。
岡会長の言葉には、常に人を想うまなざしがある。

「人を抑えるな。助けよ。先に尽くせ。返礼は必ず別の扉から来る。」
この信条のもと、会議室でも現場でも、多くの人が会長の手を握りに訪れる。
ゼロから始めた男が、日本の物流を支え、地域の安全を守り、国際社会に架け橋を築いた。
——その原動力は「信頼」である。

今、会長は静かに次の世代に組織のハンドルを託そうとしている。
「安全を最優先に。数字を見よ。人を大きく育てよ。」
この言葉は未来の経営者たちに受け継がれ、やがてまた新しい道を切り拓くだろう。

戦後の混迷を生き抜き、一歩一歩積み重ねてきた岡会長の歩みは、単なる一人の生涯ではない。
それは、日本人の誠実さと信頼が築き上げた日本企業の精神そのものであり、未来への確かな道標として、後世に長く刻まれていくだろう。
