大手化粧品メーカーの原料選びは、基本的に慎重だ。
安全性、安定供給、実績、法規対応。
どれも欠かせない条件であり、判断としては合理的に見える。
だから選ばれるのが、
長年使われ、問題が起きていない「無難な原料」だ。
ただ最近、研究と市場の両側から、
その無難さ自体が、新たなリスクになり始めている
という整理が浮かび上がってきた。
■ 無難な原料が増えたのは、研究が進んだから
まず前提として、
無難な原料が増えたこと自体は悪い話ではない。
皮膚科学や材料研究、評価手法の進歩により、
刺激性、安定性、再現性といった指標は標準化され、
極端なリスクを持つ原料は市場から姿を消した。
その結果、
現在流通している原料の多くは
「使って問題のない水準」を満たしている。
これは業界として健全な進化だ。
ただ同時に、
原料同士の差が見えにくくなったことも意味している。

■ 落とし穴①|違いが「研究の言葉」で語れなくなる
研究が進んだ結果、
単一原料の機能差は、以前ほど強い意味を持たなくなった。
皮膚科学や処方設計のレビュー研究では、
製品の使用感や満足度は、
- 原料同士の相互作用
- 配合バランス
- 使用後、時間が経過したあとの状態
に強く左右されることが、繰り返し整理されている。
つまり、無難な原料を選ぶほど、
研究的にも「差」を説明しにくくなる。
違いがないのではない。
ただ、違いを支える根拠が、研究の言葉として残りにくい。
■ 落とし穴②|処方が足し算から抜け出せなくなる
無難な原料は、処方に組み込みやすい。
相性問題が少なく、既存設計を壊しにくい。
その結果、処方は自然と足し算になる。
ところが研究では、
機能成分を過剰に盛り込んだ処方ほど、
- 使用感のばらつき
- 刺激感の発生
- 継続使用時の違和感
が起きやすい傾向が示されている。
皮膚は、単一成分ではなく、環境として反応する器官だからだ。
足しているのに安定しない。
無難な原料ほど、この矛盾に気づきにくい。
■ 落とし穴③|「安全」が選ばれる理由にならなくなる
安全性は、今も最優先事項だ。
ただ研究と制度の進歩により、安全であることは
差別化ではなく前提条件になった。
にもかかわらず、原料選定の理由が
「安全だから」に留まっていると、
その判断は弱く見えてしまう。
市場が求めているのは、安全“だけ”の説明ではない。
なぜその原料なのか。
なぜ他ではだめなのか。
この問いに答えられないことが、三つ目の落とし穴になる。
■ 無難さを、役割に変えるという発想
無難な原料は、業界の品質と信頼を支えてきた。
安全性や安定性という前提を整えた功績は大きい。
問題は無難であること自体ではなく、
その無難さを設計として語れていないことにある。
いま求められているのは、
何ができるかではなく、
どこで働き、どこまで踏み込まないかが明確な原料だ。
役割が定義された原料は処方の意図をはっきりさせ、
説明に一貫性を生む。
差別化は、強さではなく、
役割の見え方から生まれ始めている。
■ もみ殻シリカという「無難ではない原料」
もみ殻シリカが語られる理由は、
強い機能を誇れるからではない。
粉体材料や表面工学の研究では、
粒子の多孔性や嵩密度が、
吸着挙動、触感、光拡散、
使用感の持続性に影響することが整理されている。
もみ殻由来のシリカは、
多孔質で軽く、嵩高い構造になりやすく、
皮脂を奪い切るのではなく、
過剰な状態を一時的に受け止める
という役割を設計しやすい。
万能ではない。
だからこそ、処方の中で語れる原料になる。
■ 最後に
無難な原料を使い続けた結果、
落ちる落とし穴は、性能の問題ではない。
違いが語れなくなること。
設計が見えなくなること。
選ばれる理由が曖昧になること。
研究が進み、安全と品質が前提になった今、
問われているのは原料の数ではなく、原料の役割だ。無難であることに、そろそろ理由を与える。
その視点が、次の競争の始まりになる。
